効率とスピードを追い求める現代において、僕たちの「書く」という行為は、そのほとんどがキーボードの手応えや、ガラスの画面を滑る指先の感覚に置き換わってしまいました。
スマートフォンを開けば、1秒で真っ白なデジタルメモが現れる。 クラウドに保存され、検索すれば過去の記憶が一瞬で呼び出される。 確かに便利で、合理的です。
けれど、僕たちが新しいアイデアを模索するとき、あるいは心の中のモヤモヤとした感情を「言語化」しようともがくとき、デジタルの画面は時に、あまりにも冷徹で、余白が足りないと感じることがあります。
頭の中の、まだ形になっていない熱量を、そのままの温度で受け止めてくれる道具。 それこそが、今回ご紹介する、東京・蔵前の文具店「カキモリ」で仕立てた、世界に一冊だけのオーダーノートです。
「たかがノートに、そこまでこだわる必要があるのか」 もし、効率主義の住人がそう問いかけてきたなら、僕は静かにこのノートを差し出し、その表紙の手触りと、プロダクトとしての浪漫について語り始めたいと思います。

蔵前という街で、自分の「一冊」を構築する贅沢
「カキモリ」という名を聞いて、胸を躍らせる文具好き、モノ好きは少なくないはずです。 下町の職人文化が今も息づく東京・蔵前。その一角にあるカキモリは、「たのしく、書く」をコンセプトに、世界中でここにしかない文房具を提案し続けているお店です。
彼らの代名詞とも言えるのが、表紙、裏表紙、中紙、リング、そして留め具を店頭で選び、その場で一冊のノートに仕立ててくれる「オーダーノート」のサービスです。
ずらりと並んだ棚から、自分の好みのパーツをディグる(発掘する)時間。 それは、大人の秘密基地で新しいギアを組み立てる時のような、純粋な高揚感に満ちています。 「どんな紙が自分のペンに合うだろうか」 「毎日デスクに置くなら、どんな佇まいが美しいだろうか」 そうやって、完成の一冊をイメージしながら悩むプロセス自体が、すでに極上の浪漫なのです。
自分への投資としてはもちろん、大切な誰かを思い浮かべながらパーツを選び、プレゼントとして仕立てるのにも、これほど洗練されたサービスを僕は他に知りません。
幾何学の表紙、大好きなグリーン、そして漆黒の留め具
僕がカキモリで仕立てたノートは、僕の「偏愛」と「美学」をそのまま形にしたような組み合わせになりました。
まず、顔となる表紙に選んだのは、繊細な型押しが施された厚紙タイプです。 ブルーグレーのような、落ち着いた、それでいてどこかモダンな空気感を纏った幾何学的なモノグラム調の模様。光の加減でその凹凸が表情を変え、手にするたびに指先から「上質な道具を持っている」という手応えが伝わってきます。
そして、ノートを裏返したとき、僕の胸の鼓動はさらに速くなります。
裏表紙に選んだのは、僕のトレードマークでもある「グリーン」のレザーです。 しっとりとした質感を残した、深いオリーブグリーンのような色合い。フロントのクールな幾何学模様から、リアのオーガニックな本革への質感のグラデーションは、見るたびに惚れ惚れします。このレザーが、これから数年をかけて僕の手の油分を吸い、どんな艶を放っていくのか、想像するだけでテンションが上がります。
この美しい表紙たちを束ねるのが、ゴールドのリングと、四隅を守るゴールドの角金(コーナー金具)。無骨な道具になりがちなノートに、まるでヴィンテージのトランクのような気品を添えてくれています。
さらに、全体の印象を引き締めるのが、ブラックレザーで仕上げられたペンホルダー兼用のボタン留め具です。 ここに、あえてコントラストの効いたピンクの細身のペンを差し込む。 シックなモノトーンとレザーの調和の中に、一本の鮮烈なカラーが走る。この「美しき矛盾」こそが、僕のデスクにおける最高のインテリアであり、相棒の姿です。


4種類の紙を試すという「実験」、そして見えた次の景色
このノートを仕立てる際、僕は中紙にも強いこだわり(という名の好奇心)を詰め込みました。 カキモリでは、書き味や用途の異なる数十種類の紙から、好きなものを組み合わせて中身にすることができます。
僕はあえて、「4種類の異なる紙」を少しずつ混ぜて綴じてもらいました。 万年筆が滑るような滑らかな紙、ざらりとした手触りのレトロな紙、インクの裏抜けを極限まで抑えた機能的な紙……。 一冊のノートの中で、ページをめくるたびに書き味が変わる。これは、既製品のノートでは絶対に味わえない、モノ好きのための「書き味の実験場」です。
現在、このノートを仕事中や副業中、常にデスクの特等席に置く「メインのメモ帳」として使い込んでいます。 実際に様々な紙にペンを走らせてみて、分かったことがあります。 「紙によって、思考のスピードや、ペンの走り方が全く違う」ということです。
4種類の実験は非常に刺激的でロマンに満ちていましたが、同時に、自分の好みが徐々に洗練されていくのを感じています。 使い切った次回のメンテナンス時には、あえてお気に入りの1種類に「統一」して、スッキリとした仕様に仕立て直す予定です。 こうして、使い込むことで自分の好みがアップデートされ、次のビジョンが見えてくる。それもまた、この道具が持つ深い魅力です。
「使い捨てる」のではない。「共に生き、育てる」という浪漫
僕がカキモリのオーダーノートを、最強の「GEAR」として推す最大の理由は、その圧倒的な持続可能性とメンテナンス性にあります。
一般的なノートは、どんなにお気に入りの表紙であっても、最後のページを書き終えてしまえば、そこで役割を終えます。本棚の奥に仕舞われるか、あるいは処分されるか。道具としての命は、紙の枚数分しかありません。
しかし、カキモリのノートは違います。 すべてのページを書き終えたら、蔵前の店頭に持ち込むか、あるいは郵送で送ることで、「中紙の交換(リフィル)」をしてくれるのです。
8年使い込んだペローニのコインケースがそうであるように、僕たちは「時間が育てた革の艶」や「手になじんだ表紙の傷」にこそ、愛着という名のロマンを感じます。 カキモリのノートは、その愛着の湧いた表紙をそのまま残し、中身だけを新品に一新できる。 それどころか、「お気に入りのスケッチが描いてある数ページだけを残して、残りを新しい紙にする」ということや、「前回とは全く違う紙を選んで、別の役割のノートに生まれ変わらせる」ということまで可能です。
使い捨ての時代に対する、ささやかな、そして最も贅沢な抵抗。 どんどん使って、どんどん交換して、自分にとって最も使い勝手の良い「世界に一つだけの一冊」に育てていく。 お気に入りの一冊が、僕のこれからの人生に、5年、10年と永く寄り添い、僕の思考の軌跡を記憶し続けてくれる。これ以上の贅沢が、他にあるでしょうか。

最後に:蔵前という「浪漫」の源泉へ
僕はこのノートを、デスクの右上にいつも置いています。 YouTubeの企画案、ブログの構成、HR領域での思考、あるいは日々のしくじりからの反省。頭の中に浮かんだ、まだ形にならない「日々の断片」を、このノートに万年筆やボールペンで書き殴る。
その瞬間、デジタルに追われていた僕の脳内には、静かで心地よい「余白」が生まれます。
もし、あなたがデジタルの便利さに少しだけ味気なさを感じているなら。 あるいは、自分の思考を、もっと大切に扱いたいと願うなら。
ぜひ、東京の蔵前に足を運び、カキモリの扉を開けてみてください。 棚に並んだ無数の表紙と紙を前に、自分だけの「ロマン」を形にする時間は、あなたのこれからの日常を、きっと豊かに彩ってくれるはずです。
掌の中に、自分だけのフィレンツェを忍ばせるように。 デスクの上に、自分だけの蔵前の風を吹かせる。 カキモリのオーダーノート。それは、あなたの思考を宿すために生まれてきた、世界で唯一の、美しき器です。


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